日本の手仕事をつなぐ旅 〈いろいろ①〉
「久野恵一と民藝の45年 日本の手仕事をつなぐ旅」シリーズの刊行が続いています。
このシリーズは、「手仕事フォーラム」のwebサイトにて「kuno × kunoの手仕事良品」として10年に渡り連載されたコラムを元に、そこに登場する民藝品郡を新たに撮り下ろして再編集したもので、各刊320頁のボリュームを持つ、見ごたえ、読み応えのあるものです。
武蔵野美術大学在学中、民俗学者宮本常一氏に師事し、柳宗悦の民藝運動に関わる中で、暮らしの道具の中にある美に感銘を受けた久野さんは、日本中を訪ね歩き、数多くの作り手たちと関わり、新たな製品づくりへの取り組みます。それは手仕事の技術を永く土地に根付く仕事にしてゆくための活動とも言え、高度経済成長期、バブル、長い経済不況へと続いてゆく昭和から平成にかけての生活の変化を背景に、手仕事が、作り手が、日本人の暮らしの変遷の記録としても大変興味深い内容となっています。
本誌で繰り広げられる久野さんと作り手たちとの会話は、とても生々しく鮮烈で、時には「そこまで言ってしまっていいのだろうか?」と感じることもあるほどですが、その根底には「民藝のあるべき姿」を求め、自然と人との穏やかな補完関係を、人の暮らしのあるべき姿と結び、未来へ手渡そうとする思いがあったのではないかとも感じています。うまくいく事もあれば失敗もあり、「つくり手の役に立てた!」と喜んだり、思いがけず誰かを傷つけることになって落ち込んだり……。久野さんの強靭な思いや行動を読んでいると、身体の芯が熱くなってくると同時に、涙が出てきます。そして久野さんの早逝が心から悔やまれるのです……。
久野さんとは2012年より刊行の「民藝の教科書 ①〜⑥」(グラフィック社)で監修をしていただいてからのお付き合いですが、残念ながら2015年に急逝されました。直接お目にかかったのは打ち合わせでの数回のみではありましたが、原稿を通して久野さんの思いに共感し、そして時に編集者を通じてアドバイスを頂き、現代に於ける民藝のあるべき姿や、未来につなげる運動の一端を担うつもりで制作を進めていたもので、今回のシリーズではその思いを前回より更に強く感じながら制作を進めています。
造本の話を少し。
デザインでは奇をてらわず、「ことばのうつわ」としての美しさ、「読む道具」としての本の姿にこだわりました。320頁というボリュームを読みやすいものにするため、本文用紙はオペラホワイトマックスという柔らかく軽い用紙を選びました。一方、半分近くのボリュームを永禮賢さん撮り下ろしの美しい写真群に割いているのですが、表面に塗工をしていないこの紙は本来写真印刷には不向きな用紙。写真表現に適した用紙の選定も検討しましたが、これだけの頁数ではどうしても「重い」ため、ソフトカバーとは言え、持つだけで疲れる本になってしまいます。うつわ、編粗品、染織品、そして家具、作り手が生み出した物たちの魅力をしっかりと描きながら、カタログではなく、読むための本として柔らかさ、しなやかさを共存させたいという思いがありました。
そのため事前に図書印刷の丹下善尚プリンティングディレクターと共にかなりの時間をかけ、会話とトライアルを続けました。今年4月に「うつわ①」、7月刊行の「うつわ②」と歩みを進める中で、プリプレス、色校正、刷版、印刷機の選定、本番の印刷でベストを得るため、あらゆる場面で可能性を追求し、そしてもうじき出来上がる3巻目〈いろいろ①〉では、よくぞここまで、と言っては言い過ぎかもしれませんが、通り一遍のことで出来ることではないレベルのものになったように思います。工業製品である印刷物であっても、各行程での現場の方々のたゆまぬ尽力はまさに手仕事であり、このテーマに於いてこうした形に仕上げられることを、個人的にとても嬉しく感じています。
シリーズ3巻目、〈いろいろ①〉は11月上旬より各書店に並ぶ予定です。既刊2点ともども書店で見かけましたら、是非一度お手にとって見ていただけましたら幸いです。 シリーズではありますが、どの巻から読んでも楽しめる内容となっています。どうぞよろしくお願いします。(S)
既刊のご案内
日本の手仕事をつなぐ旅〈うつわ①〉2016-10-22 master デザインのこと