ゲラを読み、どのように読者に届けるか、重さや手触り、厚さなど、立体としての本の在り方を考え、用紙や部材の選定を行い、仕様に落とし込んでゆく。そうして作った仕様に則り、束見本を作って貰う。
束見本とは、いわば本の試作品だ。実際の本と違うのは、印刷されていないこと。一見真っ白な本にしか見えないが、実は様々な思いが反映されているものでもある。固い内容なのか、柔らかめなのか、読み物なのか、写真を使うのか、イラストを使うのか、シャープな顔つきがいいのか、手にじわりとなじむ方がいいのか、耐久性やコストなどの問題もクリアしつつ、様々な用紙や部材、無限の選択肢から内容に見合う本の在り方をかたちにする。これもデザインの仕事だということは意外と知られていないようだ。
もし興味があれば、好きな本を目を閉じて触り、開いてみて欲しい。そこで感じた手触りからも、その本で描かれた世界が感じられるように作られているものも少なくないはずだ。(そうでないものも多いのは残念なことです)
数年前、真っ白な本を作った。
ゲラを読み、本そのものが全てを生み出す存在、光であるといいと思った。
当初案として検討したのは、雲母紙を使い、カバーには、タイトルも著者名も印刷しない。バーコードのみ。流石に版元からNGとされた。
少し落ち込みながら、その案を改めて眺めると、それは光の塊ではなく、ただの束見本だった。思惑と現実とのギャップ。
巻き返しを図るため案を分解する。タイトルの活字をカッターを用いて一文字ずつ分解し、何気なく束見本に置いてみた。すると表紙に一文字あることで、唯の白い平面に影が落ち、立体になったように感じた。紙の束が生気を帯びるように本の顔つきになった。光を見るためには、影もないといけないのだな、と思った。姜信子さんの『はじまれ』という本は、そうして光を纏った。
写真の束見本は、最近出来上がった並製320pのもの。ここにも様々な思惑が詰まっている。どのような本になるか、どうぞお楽しみに。
2016-02-28 owner デザインのこと
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