『アノニマだより』 2色印刷の楽しさ

『アノニマだより』
2色印刷の楽しさ



アノニマスタジオさんが発行する書籍刊行案内『アノニマだより』の32号が出来上がりました。
毎号違うイラストレーターさんに装画をお願いしており、今回は出口えりさんに「冬」をテーマに描いていただきました。
いただいた原画は大変むずかしい原稿でしたが、仕上がりは出口さんにも「イメージのとおり」とご満足いただけ心からホッとしています。





制作裏話をすこししようかと思います。
素晴らしい原稿をいただいて嬉しい反面、私は頭を抱えてしまいました。
アノニマだよりは2色印刷なのです。
フルカラー4色であれば難なくできるものも、2色という色数では限界があります。
しかも用紙は濃度・彩度ともに難しい中質紙(わら半紙のような紙)です。
毎号のトライアルは楽しいのですが、今回の原稿は、むむむ難しい……。
メインとなっているグリーンは1色に見えますが、濃い部分のグリーンを刷り色に使っても中間〜ライト部にある彩度の高いグリーンは再現できません。
濃度も必要ですが、同時に彩度も欲しい。さてどうしたものやら……。



上部のグラデーションスケールが、高濃度部の色によるグラデーション。中間部からライトは原画の中間調にあるきれいなグリーンにはならず、グレートーンとなる。(画面は原画画像)



原稿を見て気づいたことがありました。原画にある2色の構成はほぼ補色の関係にあります。
この関係であれば、掛け合わせることで高濃度部を補い、且つ、隣り合わせた際には目の錯覚で彩度を感じやすくできるのではないか。

試しに原稿からCMYK分解をしてみますと、C版をメインのグリーンに。M版を差し色の赤として使いながら高濃度を補うという設計が良さそうです。



初校の分色版(上)と掛け合わせシミュレーション(下)(色はそれぞれDICに変換)



画面だけでなくプリンターでもシミュレーションを重ねます。ですがシミュレーションはあくまでもシミュレーションです。レーザープリンターはトナーの特性もあり、実際の印刷よりは彩度も濃度も出てしまうため、印刷に使用する2色はシミュレーションよりも彩度のある色を選びました。そうすることで納得のいく濃度に達するのか不安は残りますが、できることはやったつもりで初校を待ちました。

初校。濃度は出ましたが彩度が出ません。両版のライト〜中間域を明るくして再校。まだ全体がくすみ、彩度がまったく出ません。さあ後がありません。画面とプリンターによるシミュレーションは、これ以上手を加えると根本的に違う絵柄になるような状態になっていました。しかし、シミュレーションと本番の差異から見当をつけ、赤い版のライト部から中間部をさらにさらに軽くし、且つ緑のインキを若干明るいものに変更して、本番に臨みました。



分色の最終版。初校との違いがわかるでしょうか。



初校(左)と刷り上がり(右)。ロットの違いか、紙色も若干違いがあります。



左が初校、右が刷り上がりです。初校がどれほどくすんでいたかおわかりになると思います。
もちろん原画を横に置いて見比べると違うものではありますが、この媒体は紙白もくすんだ中質紙であり、使える色は2色のみです。 印刷物としての印象が、原稿の〈印象〉を再現、あるいは上回るような仕上がりを目指しました。
印刷はそもそも〈再現〉を求められるものですが、原稿と印刷物は別物として捉え、しかし印刷物としての「良さ」を見定め、そこに焦点を合わせて設計をすることで、印刷物としての〈面白み〉を得ることも印刷ならではの醍醐味です。そこでは定着されるメディアや材料が違う以上、全く同じものは存在できないという考えを持つことが大切です。
これは2色印刷という特殊な事情だけでなく、フルカラーの印刷でも同じことだと考えています。
原稿の良さを「印象」として捉え、定着するメディアを検討し(今回は予め決まっているわけですが)、印刷物としての濃度、階調の限界を予め理解しておくことで、印刷物に置き換えたときのベストな印刷設計が可能となります。



フルカラーでなく、用紙も印刷的に不利。そんな印刷物がうまく仕上がったときにはとてつもなく愛おしさを感じます。
そこで感じた愛おしさは、制作に携わったものだけの喜びにとどまらず、きっと手にとってくださった方にも伝わるはず。
そんな思いを持って毎回制作しているのが『アノニマだより』なのです。





©イラストレーション:出口えり

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