森からうまれたうつわ ロゴデザイン
ロゴバリエーション デザイン
森からうまれたうつわ リーフレットデザイン
森からうまれたうつわ
WOODWORK + Kousha
Design : 池田未奈美
Art Direction : 関宙明 Hiroaki Seki
Client : WOODWORK
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い致します。
「恭賀新春」年賀状に寄せて
グーテンベルグのはるか昔より、「紙」に束ねられ、「本」として質量を得た「ことば」は、人々の手に育まれ、常に人々のそばにありました。人の思考の拡がりは技術の進化を伴い、紙の用法に於いても百花繚乱の多様性を極めたものでしたが、近年、デジタルという新しいメディアを仲間に迎え入れると、「コスト」という名の秤に載せられ、その多様性を収斂することになってしまいました。なんという不幸。
「ことば」と紙が出会う時、言葉の持つ意味以上の拡がりや奥行きを得ることがあります。デザインはそれらを更に拡げ深める道具です。
紙の質感だけでなく、印刷の技法も「ことば」が持つボキャブラリーであり、(理由はどうであれ)デザイン自らがその多様性を否定することは、人の感受性をなかったことにすることと等しいと思っています。
「ことば」に、質量を。
デジタルもアナログも敵対することなく、表現における多様性として穏やかに共存し、人々の豊かさに貢献する技術たれ。
年賀状ではあるけれど、これはデザインに携わる一人の人間として、変わりゆく時代への願いであり、ささやかなレジスタンスでもあります。
本年もどうぞよろしくお願い致します。
ミスター・ユニバース 関 宙明
◎おしらせ
今年も小川町竹尾見本帖本店にて、「クリエイター100人からの年賀状」展が行われます。
各人が趣向を凝らした新年のメッセージが一同に介する新春恒例の展覧会も、12回目を数えます。平日のみの開催ですが、会期中お近くにお出向きの際は、どうぞお立ち寄りください。
「クリエイター100人からの年賀状」展 vol.12
2017年1月20日(金) 〜 2月24日(金)/土日祝=休
10時〜19時 ※1月27日は17時まで
Zuhre 前川秀樹物語集 装幀
彫刻家、前川秀樹さんの第一物語集です。
様々ないのちが混ざり合う時間。精霊や神々が棲む世界。前川さんの彫刻作品の世界に生きる〈像刻〉たちを、前川さん自らが五編の文章で綴った、もうひとつの「ものがたり」集です。
本書では、文章で描き出された「ものがたり」と、現物である〈像刻〉をどのように共存させるかがひとつの課題でした。
というのも、写真の持つ情報量と客観性が、読者の頭の中に広がった「ものがたり」から、現実世界に引き戻してしまうのではないか、ということを危惧したからです。
「物語の住人たちがその目で見た世界を写真にできないだろうか?」と考え、現実感を極力削ぎ落とすような方法を検討した結果、ピンホールカメラにいきつきます。
高感度のモノクロネガを限界まで増感をし、ピンホールカメラで捉えたイメージは、ぼんやりとした結像と荒い粒子をまとい、どこか異世界から届いた絵葉書のようになりました。
五編の物語のうち四体の撮影は、前川さんのアトリエで済ませていました。
残り一体の撮影は、別の日に残していたのです。
その日は朝5時に家を出て、車で霞ヶ浦へ向かいました。
数日間続いていた寒さもその日は収まり、凪いだ水面に春の日差しがまばゆく照り返していました。三月にしては暖かく、おだやかな朝でした。
霞ヶ浦を背景にした〈像刻〉の撮影は順調に終わり、スタッフ一同の満足感とともに事務所に戻ったのはお昼ごろでした。
そして午後、早朝ロケの疲れから事務所でウトウトしていたとき、強い揺れに襲われました
大きな揺れと、そのあとに続く小刻みの揺れ。そして地鳴り。道の向こうで鉛筆のように細長いビルが大きく揺れるたび、折れるのではないかと心配になりました。事務所のラジオをつけっぱなしにしていると、やがて収束するだろうと思っていた事態が、さらにさらに大きくなってゆくさまに、強い恐怖を覚えました。余震の度に心がざわつき、ラジオをつける。そんなことを繰り返し、その日は心安らぐこと無く、スタッフ三人で事務所に泊まりました。
3月11日、東日本大震災の日でした。
数週間経ち、少しずつ暮らしが戻ってきましたが、まだまだ様々な部分で混乱や不安が残っていました。
五月に予定されていた展覧会に発売するために進めるべきでは? と思う一方で、様々な人が困窮している中、物資やインフラが欠乏している中、出版することの意義は? それよりも先にやることがあるのではないのか? 誰にとっての出版なのか……?
数週間に渡る自問と逡巡の果て、私たちが送り出そうとしているこの本は、人の心に寄り添い、そして励ましてくれるはずだと最終的に思いいたり、スタッフ一同、気持ちを新たに進めることにしました。
五月の展示初日、多くのお客さまが展示に訪れ、会場に並んだ本を「待っていましたよ」と迎えてくださいました。このときほど、嬉しかった事はありません。
物語それぞれが異なる世界を描いているように、組版の方でも、あたかもそれぞれが「違う世界で語られた」かのように、五編それぞれの物語に合わせて異なる書体と組み方を合わせました。
また、ひとつの物語を二折に収めることで、折毎に文字用の特色墨+違う特色の組み合わせを可能にし、それぞれの物語に違う色味の特色でピンホールカメラの画像を印刷。各世界の違いを更に補強しました。
製本はコデックス装。表紙を本体より少し短くして背の寒冷紗を見せることで、未完成の、言い換えれば「見てはいけないもの」のような、でも、つい見てしまう、そんな「特別な一冊」の印象を生み出せたのではないかと思います。