大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました

大切な人が病気になったとき、
何ができるか考えてみました

大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました

大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました 装幀

 

大切な人が病気になったとき、
何ができるか考えてみました
井上由季子 著 赤澤かおり 編集
筑摩書店刊

 

新しい本が出来ました。

本書は、著者の井上由季子さんがご両親の入院をきっかけに、病院での時間を少しでも過ごしやすくするために「患者の家族」として何ができるか、病院の負担にも、そして寄り添い続ける自分自身の負担にもならないよう配慮しながら、実際に行った小さな工夫の積み重ねを記したものです。

その多くは「ティッシュボックスに家族の写真を貼る」や、「声が出にくくなったお父さんのために、単語帳をつくる」など、手軽に始められること。

忙しい、心配、疲れなど、患者、家族、医師、看護師を問わず、病院で過ごす時間には、各々心の負担の種はあるものです。それらを少しでも和らかく受け止め合うために、「気持ちをわかりやすく伝える」ことや、「話のきっかけ」をつくる手助けをすることは、会話を生み、お互いの気持ちが近づき、意思を交わし合いやすい関係を培うことができるのではないかと思います。家族に寄り添いながら、職員の気持ちにも寄り添う。ここに収められた「患者家族からの提言」には、病院に限らず人同士の関係をより良くし、皆が過ごしやすく生きてゆくための沢山のヒントが詰まっているように思います。

 

後半となる2章では、井上さんが「ホスピタルアート」のつくり手の一人として携わった、『国立 四国こどもとおとなの医療センター(香川)』と、『赤ちゃんとこどものクリニックBe(和歌山)』を紹介します。

日本における公共施設での「アート」というと、「作品」と「見る者」といった、無意識のうちに関係性を分断してしまうようなものを思い描きがちですが、ホスピタルアートディレクター森合音さんは、共に時間を過ごす場としての病院のあるべき姿を、一方向からの働きかけではなく、お互いに手を携え、「人と人とが寄り添うことで、命のちからを育む場所」として定義し、アートという技術を用いて患者、職員、この場所で過ごす(あるいは訪れる)人々の関係づくりに於ける最適解を、病院に常駐しながら日々探り、そして実践しています。

 

さて、デザインの話をします。
初めてのお打ち合わせの時、著者の井上さんとちくまの編集担当の方から様々なお話を伺ううちに、「制作に入る前に森さんに会い、自分の目で病院を見ないと、デザインを誤りそうだ」という思いが生まれました。

既に取材は済んでいるので、私が行かずとも本は出来上がるのですが、どうしても自分の気持ちをそのままにしておくことが出来ず、香川県へ向かいました。

病院で迎えてくださった森さんを前に、言葉に詰まってしまいました。 自分のことをどう説明すればいいのだろう……?
「私はこの本で文章を書くわけではありませんし、写真を撮るでも、イラストを描くわけでもありません。ましてや取材は既に済んでいます。私は本のデザインを依頼された者です。ですので、今日頂いた時間が、はっきり「これ」とわかる形になるかどうかは、お約束することはできません。ですが、デザインを進めるにあたって、原稿から感じたことを、どのような形で定着すべきなのか自分自身で納得して進めたいと考えています。そのためには、自分の目で病院を見、森さんに会うことが必要だと思いました」。

身も蓋もない言い方だと思いましたが、森さんは、「関さんも動く人なんですね。お気持ちよくわかります」と、言ってくださり、ホッとしました。

ホスピタルアート、医療、病院、病院で働く職員の皆さんのこと、人とアートの間にある普遍的な関係、そこから導き出される政策提言……。
この場所で様々なかけらたちが形づくろうと動き始めている、その力強い動きを聞いていると、なんだか勇気が湧いてきます。
個人的にいちばん印象に残ったのは、森さんが下見として初めて病院を訪れた時のエピソードでした。

駅からの途中にある善通寺というお寺に立ち寄りました。その境内には樹齢千年と言われる大きな楠があります。千年の間変わることなく、人々の喜びや悲しみを見つめてきた大楠。今も尚、青々と芽吹く生命力の塊のような姿を見て、生き物の「いのちの強さ」に強く励まされたそうです。「いのちを励ます」こと。それこそが病院のあるべき姿なのではないかと感じたそうです。

   

カバーや本編に描かれた木。これは井上さんが主催する工房の生徒さんたちに作っていただいたものです。この本の象徴として、私自身もその目で見た、善通寺の大楠の、あの生命力を表現したいと思いました。しかし、その姿を写真やイラストで再現することは違うと思いました。生命力だけを取り出したような表現ができないものか思い悩みました。そして表現のプロではなく、手を動かすことが大好きな人々が集う工房の生徒さんたちに、生き生きとした「木」の姿を描いてもらうというアイディアへとたどり着きました。

数ヶ月後、ダンボールに詰められて80点ちかくのアートワークが届きました。箱を開けた瞬間、大げさでなく、「今まさに芽吹かん」といった生き生きとした息吹が、アートワークたちから放たれていました。その驚きは忘れられません。ここから先は、ほぼ迷うことなくデザインを進めてゆきました。それはまるで、大きな力に導かれて、すべてがあるべきところへ収まっていったような感覚でした。

 

生徒さんたちのアートワークは、「四国こどもとおとなの医療センター」にある「ニッチ」と呼ばれる場所で、病院で過ごす人々の目を楽しませています。きっと、あの善通寺の大楠さんのように人々を見つめ、その生き生きとした生命力を持って、皆さんを励ましていることでしょう。
この本は、さらに高齢化する日本社会の中できっと多くの人を励ましてくれることと思います。
書店などで見かけることがありましたら、手にとってくださったら嬉しいです。

  大切な人が病気になったとき、何ができるか考えてみました

善通寺の大楠

 
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